研究概要 |
近年、我が国においても、いわゆる"合法ドラック"アルキルナイトライト(亜硝酸エステル)類が注目されている。これらの化合物には法的規制がないために、若者の間でも興奮剤として広く流行している。法医学の分野でもこれらの化合物による中毒例や自殺例にしばしば遭遇する。アルキルナイトライトは吸入直後、アルキルアルコールと亜硝酸に分解されるため、分解産物である両化合物を定量するのが一番確実である。そして死因を判定するためにヒト試料中からの高感度で正確な分析法の開発・改良が必要である。しかしながら,現在では,全血や尿などのヒト試料中のこれらの化合物について、高感度分析を行った報告は殆ど見当たらない。 今回我々は、n-ブチルナイトライト,イソブチルナイトライト,イソアミルナイトライトの3種類の分解産物であるn-ブチルアルコール,イソブチルアルコール,イソアミルアルコールを、ヘッドスペース抽出(HS)と我々が近年開発した新しい分析法である低温オーブントラッピングガスクロマトグラフィー(COT-GC)を組み合わせる事により、新しい高感度検出を試みた。その結果,いずれの化合物ともシャープなピークが得られ、バックグランドにおいても不純ピークは見らなかった。抽出効率・再現性も良好で高感度分析を行う事ができた。さらに安価で市販されている合法ドラッグ「Rush^<【○!R】>」に多く含まれているイソブチルナイトライトガス少量を実際に吸引して採血を行い,本分析法を用いて全血中のイソブチルアルコール濃度を測定した。また、血中亜硝酸は血球中ヘモグロビンを酸化して毒性のあるメトヘモグビンを生成するが、その血中濃度を同時に吸光光度計を用いて定量することができた。 今回の実験では、上記3つの分解産物の安定性についても詳細な実験を施している。以上実験結果の詳細をまとめ、海外専門誌へ発表した。
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