研究概要 |
平成13年度は,トルエン吸入による心筋に対する過酸化障害の検討を行った。Wister系雄性ラット(10週齢)を用い,トルエン(1,500ppm)を1日4時間,7日間吸入させた。トルエン吸入群と対照群について,免疫組織化学的に,(1)酸化的DNA傷害産物である8-hydroxy-2'-deoxyguanosine(8-OH-dG)と(2)活性酸素分解酵素であるsuperoxide dismutase(SOD)染色し,形態学的に観察した。また,(3)8-OH-dGをenzyme-linked immunosorbent assay(ELISA)法で定量し,生化学的に検討した。(1)8-OH-dG染色では,対照群では,散在性に心筋細胞核内に陽性像が観察された。トルエン吸入群でも対照群と同様に散在性に心筋細胞核内に陽性像が認められ,両群間に明らかな差異は認められなかった。(2)SOD染色では,対照群では明瞭な陽性像は観察されなかったが,トルエン吸入群では心筋細胞核周囲に陽性像が認められた。(3)8-OH-dGを定量したところ,対照群で1.150±0.096ng/ml(平均値±標準誤差),トルエン吸入群で1.073±0.119で,有意の差異は認められなかった(p=0.6262)。以上の結果から,トルエン吸入によって心筋細胞に対して過酸化障害によって酸化的DNA傷害が生じている可能性が考えられた。また,この酸化的DNA傷害に対して保護的にSODが増加するものと推定された。
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