火災ガス吸入により形成されるメトヘモグロビン血症が血中シアン濃度に及ぼす影響について、血中シアンの安定性を考慮し詳細に検討することを目的とした。死後経過時間が8〜48時間の焼死剖検22例の右心血を試料とした。剖検時の血中シアン濃度(C)に基づき、、死亡時の血中シアン濃度(C_0)をC_0=C・e^<0.0046t>(t:死後経過時間)により求めた。また、メトヘモグロビンの最大シアン結合量を推定するため、総メトヘモグロビン(遊離メトヘモグロビンとシアンメトヘモグロビン)濃度を求めた。シアンメトヘモグロビン濃度は、血中シアン濃度を2で除することにより求めた。5例において、死亡時の血中シアン濃度が5.32〜6.47mg/lと極めて高い値を示していたと推定された。その内3例では、総メトヘモグロビン濃度の上昇が認められ、死亡時にシアンはすべてシアンメトヘモグロビンとして存在していたと考えられた。それらの一酸化炭素ヘモグロビン飽和度は54.7〜63.0%と致死レベルに達していた。他の2例では、遊離メトヘモグロビンは検出されず、一酸化炭素ヘモグロビン飽和度も30.9〜37.9%とさほど高くなく、死亡時にシアン中毒下にあった可能性が高いと思われた。遊離メトヘモグロビンが検出されなかった症例は更に2例あり、それらの一酸化炭素ヘモグロビン飽和度は1.6および9.7%と極めて低くかった。両者の死亡時の血中シアン濃度はそれぞれ0.11および1.99mg/lと推定され、後者ではシアン中毒が疑われた。他の13例の血液中から0.06〜2.36mg/lのシアンが検出されたが、いずれの濃度も総メトヘモグロビンのシアン結合能を下回っていた。火災被害者におけるシアン中毒の正しい評価には、一酸化炭素ヘモグロビン飽和度とともにメトヘモグロビン濃度を測定する必要のあることが明らかとなった。
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