研究概要 |
ヒト精液に特異的なγ-glutamyl transpeptidase活性酵素であるユビキチン化CD10-CD13複合体(SEGAP : seminal γ-GTP active protein)の生理的役割の解明を目的として、培養細胞内のmRNA発現の変化を観察した。 HeLa (human cervical carcinoma)は5mMEDTA/PBSでハーベストし、10%FCS/RPMIで2時間回復させた後に4×10^6個ずつ分注した。SEGAP0.1μgを添加し、0,15,30,45,60分間インキュベート後、AquaPure RNA Isolation Kitを用いて約50μgのトータルRNAを得た。5μgのRNAをcDNAに逆転写してRT-PCRを行った。サイトカインの中で、IL-1β,IL-8,IL-12およびTNFはSEGAP刺激の有無にかかわらず発現しており、変化は観察されなかった。アポトーシス誘導に関わるFASおよび増殖反応性遺伝子c-fosも同様であった。HeLa細胞におけるiNOSの発現はなく、SEGAPよる誘導も観察されなかった。体液性免疫に関連するレクチンの1つであるMBL (mannose binding protein)はコントロールでは発現しないが、SEGAP刺激15分から30分後にmRNAの誘導が観察された。MBLはストレス発生や感染時に標的タンパク質あるいはバクテリアのマンノース鎖に結合し、更に補体系を活性化させて細胞外での防衛反応に貢献する。一方、精子細胞膜表面にはマンノース結合部位が存在し、受精時に卵子との結合部位になる。感染があった場合、バクテリアの細胞膜上のマンノースと精子が結合する可能性が生じる。今回、精液との接触がある組織由来の細胞でSEGAP刺激によりMBLのmRNAが発現したことから、SEGAPが感染などから精子を防衛している可能性が考えられた。
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