我々はこれまでに覚醒剤の直接的な心毒性について、単離心筋細胞を用いて研究を重ねてきた。平成13年度初年度の研究計画では、単離心筋細胞への覚醒剤の直接作用を更に検討しつつ、加えて、覚醒剤が体内に吸収された後、最初に影響を及ぼすと考えられる心臓血管内皮細胞とのco-culture系を用いて覚醒剤曝露実験を行い、単独培養系で見られた変化と比較することにより覚醒剤の心毒性機序を解明することを目的とした。これまでの新たな知見としては、心筋細胞単独培養に覚醒剤を0.05及び0.1mMで曝露したときに見られた経時的な細胞面積の増加促進に伴って、細胞内MAP kinaseのリン酸化が上昇した。しかしながら、面積増加の見られなかった0.5mMでは、曝露後11日目ではリン酸化の上昇は見られなかった。高濃度での長時間曝露で細胞障害も観察されていたことより、cell survivalに関連した細胞内シグナル伝達Aktタンパクの変化を観察した。その結果、経時的にAktのリン酸化は僅かに上昇する傾向であったが、0.5mMの高濃度では、曝露後7日及び11日目でその傾向は見られず、逆にAktタンパクの消失が見られた。細胞死との関連について今後検討する予定である。また現在、非心筋細胞である心血管内皮細胞および線維芽細胞の単離及びこれらの心筋細胞とのco-cultureについては、良好な単離条件が確立できていない。酵素のロット等を検討し単離とco-cultureの条件を確立し、覚醒剤の曝露実験を進める予定である。
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