研究概要 |
これまでに覚醒剤の心筋細胞への影響として、血清添加培養液で培養することにより惹起される心筋細胞の肥大現象が、培養液中に覚醒剤が存在することにより増強され、覚醒剤は心毒性に直接影響を及ぼすことを報告してきた。本研究では、さらに覚醒剤の心臓への作用を調べるため、覚醒剤が心筋細胞に到達する前に接触する血管内皮細胞について心筋細胞の存在下で培養した内皮細胞に覚醒剤を曝露し、心筋細胞の変化を観察することを目的とした。先ず始めに、ラットの心臓から心臓血管内皮細胞を酵素的に単離し20%FCS存在下で培養し、subcultureしたものにつき覚醒剤を曝露して、内皮細胞の形態変化を観察した。その結果、覚醒剤曝露後2日目より0.5mMの濃度で細胞質内に空胞様形成及び顆粒状構造の出現が見られ、微小管を免疫染色すると、これらの細胞では微小管のnetworkが密となりcentrosome様構造が顕著となっていた。また、コネクシン43を染色すると、細胞質内にも多く発現していた。この内皮細胞への覚醒剤曝露培養液を13日間10%FCS含有培養液で培養した心室筋細胞の培養液と交換して12,24,48時間毎に心筋細胞を可溶化して細胞内のMAPkinaseのリン酸化の程度をWestern Blot法で観察した。control及び曝露群のリン酸化は、経時的に増加するが、それぞれ曝露群の方がcontrolに比しリン酸化が上昇していた。一方、内皮細胞曝露をせずにそのまま覚醒剤を心筋細胞に曝露したものでは、殆どリン酸化は進まなかった。この内皮細胞への覚醒剤曝露培養液を心筋細胞に更に長期間曝露することにより、0.5mMの濃度では心筋細胞のatrophyが観察された。以上これまでの結果から、覚醒剤は直接内皮細胞に変化を与え、その培養液中には心筋細胞の細胞内シグナル伝達系をup-regulateする因子を含む可能性が示唆された。平成15年度には、これらの因子の解明を行う予定である。
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