トランスジェニック動物を用いたABO血液型物質に対する抗体産生機序の解明

2001 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 13670435
• 研究機関: 自治医科大学
• 研究代表者: 岩本 禎彦 自治医科大学, 医学部, 助教授 (10232711)
• 研究分担者: 熊田 真樹 自治医科大学, 医学部, 助手 (40326830) ; 奥田 浩 自治医科大学, 医学部, 助教授 (50285772) ; 亀崎 豊実 自治医科大学, 医学部, 助手 (90316513) ; 梶井 英治 自治医科大学, 医学部, 教授 (40204391)
• キーワード: ラットABH抗原 / トランスジェニックラット / ラットABOオーソログ

研究概要

ABO式血液型の抗原側の理解はこの10年で大きく進歩し、糖鎖抗原や遺伝子構造が生化学的および遺伝学的にほぼ解明された。しかし、それに対する抗体産生の謎は残されたままである。また、ABO抗原の不一致は、輸血だけでなく移植医療においても、免疫抑制剤が大きく進歩した現在なお大きな問題として残っている。これらを解決するために、移植実験が可能な実験動物として最も小型なラットにヒトABO糖転移酵素を遺伝子導入することによって、AあるいはB型の発現のみが遺伝的に異るトランスジェニック動物を作製した。まず、ラットのABOオーソログをクローニングするとともに、ABH抗原のラット各臓器における発現を免疫染色によって検討した。その結果、ラットは、四つのパラロガス遺伝子群としてABOオーソログをゲノムにコードしており、そのうち3つはA型の糖転移酵素活性を、1つはB型糖転移酵素活性を持つことが判明した。しかし、wildラットの免疫染色では唾液腺、腸管、膀胱の上皮のみにA型抗原を認め、B型抗原は全ての臓器で認めることはできなかった。そこで、このラットにCAGGSベクターに挿入したヒトのAあるいはB糖転移酵素を遺伝子導入し、免疫染色によってABH抗原の発現を検討した。その結果、ヒトA型遺伝子を導入したラットは、唾液腺、小腸、膀胱に加えて、脳、肺、膵臓外分泌腺、表皮に新たにA抗原の発現を認めた。また、ヒトB型遺伝子を導入したラットは、唾液腺、小腸、膀胱、脳、肺、膵臓外分泌腺、表皮にB抗原の発現を認めたが、A抗原も唾液腺、小腸、膀胱にwildラット同様の発現を認めた。これらの事実から、ラットではABO糖転移酵素の基質となるH抗原の発現は、ヒトと異り、上皮系のみに限られていること、また、ABOオーソログの発現は唾液腺、小腸、膀胱に局在していることが判った。これらのデータをもとに、現在、移植実験を進めており、部分的であるが、AおよびB抗原はラットにおいても移植拒絶抗原として機能しうることが判明しつつある。今後は、抗AあるいはB抗体の産生機序についても検討を重ねる予定にしている。

研究成果

• [文献書誌] Sadahiko, Iwamoto: "Deletion of A-antigen in human cancer cell line associated with reduced promoter activity of CBF/NF-Y binding region, and possibly with enhanced DNA methylation of A transferase promoter"Glycoconj J. 16. 659-666 (1999)
• [文献書誌] Sadahiko, Iwamoto: "Cloning and characterization of erythroid-specific DNase I-hypersensitive site in human rhesus-associated glycoprotein gene"J Biol Chem. 275. 27324-27331 (2000)
• [文献書誌] Sadahiko, Iwamoto: "Reactivity of autoantibodies of autoimmune hemolytic anemia with recombinant rhesus blood group antigens or anion transporter band3"Am J Hematol.. 68. 106-114 (2001)
• [文献書誌] Koji, Kishino: "Evaluation of engrafment by ABO genotypic analysis of erythroid burst-forming units after bone marrow transplantation"Leukemia Research. 26. 13-17 (2002)
• [文献書誌] Hiroshi, Okuda: "Sequence analysis of the spacer region between the RHD and RHCE genes"Biochem Biophys Res Commun. 263. 378-383 (1999)
• [文献書誌] Toyomi, Kamesaki: "Molecular characterization of weak D phenotypes by site-directed mutagenesis and expression of mutant Rh-green fluorescence protein fusions in K562 cells"Vox Sang. 81. 254-258 (2001)