研究概要 |
除草剤パラコート(PQ)は酸化還元サイクルによって体内で容易にsuperoxideを産生することが知られている。われわれは,特異的障害臓器である肺に注目し,PQ投与後初期の段階で影響をうける遺伝子を検出することを試みた。すなわちPQ20mg/kgをラットに投与し,投与後3hrで肺からRNAを抽出し遺伝子発現レベルの違いをcDNA arrayで検討した。この20mg/kgは、投与後3hrでは病理的変化は観察できないが、24hrでは肺に障害が観察される。DNA macro arrayで1.5倍以上(〜3.7倍)up-regulateする遺伝子が14個,1.5倍以上(〜2.5倍)down-regulateする遺伝子が15個検出された。とくに変化の大きな遺伝子についてリアルタイムRT-PCRで検討した結果,PQ毒性で変化が期待されるthioredoxin, platelet-derived growth factor(PDGF),glutathione S-transferase, superoxide dismutase(SOD)などの遺伝子において有意な発現促進が確認された。さらに一部constitutiveなチトクロムP450(CYP)で興味ある結果が得られた。すなわち雌(肝)に発現が報告されているCYP2c6,CYP2c7,CYP2c12は,正常群の肺での発現は非常に低いが,PQ3hr暴露で有意に促進することが分かった。この発現変化は,肺に特異的であり肝臓ではわずかに促進を示すが,腎臓では反対に抑制傾向を示した。また、CYP2c6,CYP2c7,CYP2c12はいずれも3hrで発現変化のピークを示し,24hrでは低下した。以上,PQ3hr暴露の肺でのCYP遺伝子発現への影響が,PQに特異的な肺毒性のブレイクスルーになる可能性が示唆された。
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