上記研究課題において、ホスファチジルセリン依存性抗プロトロンビン抗体(aPS/PT)の特性を明らかにした。aPS/PT ELISAを樹立し、抗リン脂質抗体症候群や他の自己免疫疾患での頻度と血栓症との相関を検討したところ、aPS/PTはほかの抗リン脂質抗体よりも抗リン脂質抗体症候群に対する特異度が強かった。このような抗プロトロンビン自己抗体は、ホスファチジルセリンと結合したプロトロンビンに新たに出現したクリプティックエピトープと反応する可能性が考えられた。プロトロンビンをトロンビンあるいは活性化第X因子で消化して、プロトロンビンのフラグメントを精製したが、ホスファチジルセリンとフラグメント-1、およびフラグメント-1+2との複合体には患者由来のaPS/PT活性をもつ精製IgGの結合はみられず、エピトープはα-thrombin側にあるか、またはconformationalであると考えられた。 マウスをヒトプロトロンビンで免疫し、ホスファチジルセリン-プロトロンビン複合体に反応するモノクローナル抗体(231D)を得た。231Dは、ホスファチジルセリン非依存性抗プロトロンビン抗体陰性、ウエスタンブロット陰性であり、あたかもヒトの自己抗体(aPS/PT)のような性質であった。この231Dを精製し、正常血漿に加えたところ、濃度依存性に凝固時間が延長し、強力なループスアンチコアグラント活性があることが示された。231D加血漿を用いて標準曲線を作成し、同じ正常血漿と患者血漿を混和して作成したサンプルの凝固時間を測定すると、患者血漿の抗凝固活性がモノクローナル抗体の力価として相対的に表現され、すなわち231Dを用いるとループスアンチコアグラントの定量化が可能であることが示された。231Dを用いたループスアンチコアグラントは高感度で再現性が高く、抗リン脂質抗体症候群の診断に非常に有用である。
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