自己免疫疾患患者に見出される自己抗体は様々な細胞核内、細胞質内のたんぱく質を標的としていることから、疾患の病態成立の解明目的だけでなく、新規の構造や機能を有するタンパク質の発見つながる契機としても有用な材料となっている。我々はシェーグレン症候群の患者血清のうち、特に蛍光抗体法により核小体と斑点状パターンを示すものを用いて、ヒト精巣ライブラリーから発現クローニングを試みた。その結果これまで報告のされていないタンパク質の全長cDNAクローニングに成功した。このタンパク質(仮称ZP140)のcDNAは長さ5.5kb、pI6.5であり、モチーフの解析から以下の特徴を有していることを確認した。すなわち、(1)4つの細胞核内局在シグナル、(2)Krup Peltype Znフィンガー、(3)主に転写調節因子にみいだされるPHDドメイン、(4)プロリンリッチドメイン、(5)7つのSH3結合ドメイン。 以上の特徴から、ZP140は独自の特徴を有する新規の核内転写調節因子の可能性が高い。特にPHDドメインは植物で当初見出されたホメオドメインタンパクに存在するもので、ヒトにおいては染色体との相互作用を通じて転写調節を行っている因子に特徴的なモチーフとされており、このタンパク質の機能を特定する際に鍵となると考えられる。我々はさらにこの因子のDNA結合モチーフの同定や、転写因子複合体を形成する他のタンパク質の同定などを通じて、単に外分泌腺の乾燥症状だけでなく多彩な腺外症状を呈するシェーグレン症候群の病態機序の解明に寄与できればと考えている。
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