マスト細胞におけるFcεRIからの情報伝達において、なぜCblがSykの機能を抑制し、情報伝達を抑制するかという分子生物学的機序の解析を試みたが、特に本研究では、SH3ドメインを有する種々の細胞内情報伝達物質との結合に重要なプロリンリッチ領域の意義に関して検討した。 過去の一連の研究から、特に重要であると予想された543-548のPPPPPP部位の変異体を作成し、野生型Cblとともにマスト細胞内に過剰発現させ、その細胞における高親和性IgE受容体刺激後の細胞内情報伝達系を比較検討した。 Sykは受容体刺激後、そのSH2ドメインを介して、チロシンリン酸化されたγ鎖に結合し活性化されることが知られている。そこでSykのリン酸化ならびにγ鎖との結合の程度を比較検討した。またマスト細胞活性化の指標として、ルシフェラーゼレポーターアッセイ法で、転写因子NFκBの活性化を検討した。またあわせて放出ヒスタミン量の検討を行った。 プロリンリッチ領域の変異体を発現したマスト細胞では、野生型Cblを発現したコントロール細胞に比べて、Sykのリン酸化ならびにSykとγ鎖の結合に変化は認めなかった。しかしながら、Cbl過剰発現によりNFκBの活性化ならびに放出ヒスタミン量は抑制されたが、プロリンリッチ領域の変異体を発現した細胞では、抑制程度が弱かった。これらのことから、プロリンリッチ領域の変異は、Sykの活性化に影響を与えないが、Sykより下流の分子に作用して細胞内情伝達を制御しているものと考えられた。
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