Stx産生腸管出血性大腸菌(STEC)感染に伴うHUSや脳症の発症は、Stxと炎症性サイトカインの相乗作用による血管内皮傷害が主体と考えられている。近年フォスフォジエステラーゼ(PDE)阻害剤が、気管支喘息のみならず、TNF-αの持続産生による脱髄進行を伴う多発性硬化症の進行抑制に有効であることが報告された。本研究では、低蛋白飼育C57BL/6マウスのSTEC感染系において、PDE阻害剤が脳症発症を抑制し得るかを検討した。 PDE阻害剤には、I-V型、ibudilast(Ib)(cAMP-PDE阻害剤)、及びtheophylline(非特異的)の7剤を用いた。マウスの脳・腎から抽出したPDEに対する阻害活性測定の結果、全ての薬剤が5mM以上の濃度で両組織のPDE活性を25%以上抑制し、濃度に比例して抑制率は65%(100mM)迄上昇した。新鮮分離したマウス脳ミクロダリア細胞を、内毒素(10ng/ml)とStx2(10pg/ml)で24時間刺激時、各種薬剤はlmM以上で濃度依存性にTNF-α・IL-lβ・IL-6及びNO産生を抑制し、IL-10産生を逆に増加させた。III、lV、V型の3剤の各0.25mM濃度共存で、最も作用の強かったIb(30mM)と同等の効果を発現した。 STEC感染マウスに対しては、低濃度で抑制効果が顕著であったIII、IV、V型の3剤を、各薬剤の血中濃度が1〜0.5mMになる投与量を決定し、感染翌日から朝夕二回5日間投与した。感染後の血液・腎・脳中のTNF-α・IL-lβ・IL-6は対照群に比して有意に低く、有意差は無いがIL-10は高値傾向を示し、脳症による死亡率も15%以下(対照90%)であった。PDE阻害剤は、STEC感染時の合併症発症予防薬剤として期待し得ると思われた。
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