正常細胞が腫瘍細胞へとtransformしていく過程においては多段階的な遺伝子の変異が生じ、その結果通常の細胞増殖制御機構から逸脱する。近年相次いで発見されたGab1などのアダプター蛋白は、細胞内シグナル伝達を円滑で効率的に行うのに必須な分子群である。腫瘍性疾患では増殖因子受容体や転写因子などの増殖シグナル分子の量的・質的発現異常が数多く報告されている。しかし、アダプター蛋白の発現異常はこれまで検討されていない。そこでアダプター蛋白の発現異常も腫瘍性疾患に関与する可能性を考えて、正常の線維芽細胞が発癌物質などの環境因子刺激を受けて多段階的変化により腫瘍細胞へtransformしていくin vitro transformationモデルを用いてGab1の発現と機能変化を検討した。この過程で関節リウマチ(RA)滑膜細胞に酷似した増殖因子依存性anchorage-independent growthを示す前腫瘍性の段階でGab1の発現異常が見られ、N末端から103のアミノ酸を欠失したGab1^<Δ1-103>が発現し、この蛋白は細胞膜リン脂質との相互作用に重要なPHドメインのほとんどを欠損し、野生型Gab1と異なる細胞内局在を示した。この結果からRAにおける滑膜細胞の腫瘍様増殖にもアダプター蛋白の異常が関与している可能性が示唆された。そこで次にRA患者由来の滑膜細胞を用いて、主要な増殖因子血小板由来増殖因子(PDGF)の刺激伝達におけるアダプター蛋白の関与を検討した。RAの滑膜細胞にはGab1などが発現しており、発現異常は見られなかったがPDGF刺激でリン酸化され、PDGF刺激伝達における関与が示された。慢性骨髄性白血病治療薬STI571がPDGF刺激によるGab1などのリン酸化と滑膜細胞の増殖をほぼ完全に抑制したことから、STI571がRAの新規治療薬となりうる可能性が考えられた。
|