研究概要 |
これまで申請者らは、Helicobacter pylori(以下Hpと略す)が胃粘膜に結合し定着するための鍵を握る菌体表面に位置する酵素であるurease、ことにそのlarge subunitであるB鎖が患者血清抗体の主たる認識抗原であることを見出した(日本消化器病学会誌、91巻、2202-2213、1994)。その際、胃炎の表層性変化にはureaseに対するIgA抗体の上昇が、また萎縮性変化にはIgG抗体の上昇が関連するすることを見出すとともに(Gut、43:168-175,1998)、Hp-ureaseに対するIgG抗体には病状進行を促進するものと、Hpの感染を予防するものとがあることを想定した。そこで、本研究では、まず精製Hp-urease抗原をBALB/cマウスに投与し、その免疫脾臓細胞からHp-urease特異的なhybridomaを作成し、その中よりHp-ureaseの酵素活性(尿素分解能)を抑制するものを見出し、合成ペプチド群を用いてその認識部分のエピトープの同定を試みた。本科学研究費の補助により申請者らは、Hpのurease、ことにその酵素活性を抑制する中和抗体の最小エピトープをB鎖内の8個のアミノ酸からなるペプチドF8(SIKEDVQF)として同定すること、そしてその中でも329番目のアミノ酸であるリジン(K)がHp-ureaseの活性特性の鍵を握ることを見いだし、その内容を国際誌(Infect.Immun.69:6597-6603,2001)に掲載した。また、このF8部分は同時期に報告されたHp-ureaseの酵素活性の活性中心(Nat.Struct.Biol.8:505-509,2001)と完全に一致していることを確認した。現在この中和エピトープを用いたHp感染予防および除菌効力のあるワクチンの開発を目指している。
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