研究概要 |
アデノウイルスベクターを用いた遺伝子治療は,21世紀の癌治療法として注目され,近年,多くの癌に対し実験的に検討されている.特に,最近,アデノウイルスのE1遺伝子の一部(Rb結合領域やp53結合領域)に変異を導入することにより,腫瘍内で特異的に増殖し細胞融解を惹起する癌特異的増殖型ベクターが作製され,注目されている.胆嚢癌は,多くは進行期に発見され,根治の難しい予後不良な癌であるが,遺伝子治療の報告はない.本研究では,胆嚢癌の遺伝子治療の研究として,E1領域に変異を有する二つの変異アデノウイルス(E1B-55kD欠損ベクターおよびE1A293-297,E1B-55kDの二重変異ベクター)の有効性を実験的に解析した.その結果,2つのE1変異アデノウイルスは,胆嚢癌細胞(TGBC-44TKB,MzCh-A2)の中で,感染4日目までに野生型アデノウイルスと同程度の100-1000倍に増殖し,4日以後,癌細胞を融解壊死させた.一方,2つのE1変異アデノウイルスは,ヒト正常培養細胞(肝,小腸上皮,線維芽細胞株)では,野生型アデノウイルスに比し,明らかに増殖が抑制され,細胞障害も軽微であった.特に,E1A・E1B重変異ベクターは,E1B-55kD欠損ベクターに比し,正常細胞に対する安全性がより優れていることが示唆された.現在,二つのベクターのin vivoにおける有効性をヌードマウス皮下移植腫瘍において検討中である.
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