肝再生はその各過程において様々なサイトカイン・増殖因子がオートクリン・パラクリン因子として発現し制御されている。増殖促進因子としてEGFやTGFα、HGFなどが知られ、これらは単独でDNA合成を誘導する完全mitogenと呼ばれる。.抑制因子としてTGFβやアクチビンがある。α_1アドレナリン作動薬であるノルエピネフリン(NE)は自身はDNA合成促進作用を持たず、完全mitogen存在下でその作用を増強することから肝再生の"co-mitogen"として知られていたが、その細胞内機序の詳細は不明であった。われわれはまず、Hep3B細胞を用いて、肝細胞におけるTGFβ・アクチビンによる増殖抑制機構にはTGFβファミリーの細胞内シグナリング因子であるSmad系が関与していることを明らかにした(Hepatology Research誌に発表)。そしてNEがアクチビンの増殖抑制作用をブロックすることからSmad系に着目し、NEを初代培養肝細胞に添加するとNF-κB依存性に抑制性SmadであるSmad7遺伝子の発現が誘導されることを明らかにした。肝細胞にSmad7を過剰発現させると、アクチビンによる増殖抑制作用が拮抗されたことから、NEのco-mitogen作用はSmad7の発現誘導により肝細胞からオートクリンされるアクチビンの作用をブロックして発揮される可能性を示した。Smad7はTGFβ・アクチビンの作用を調節する分子スイッチと考えられ、ここに新しい三量体G蛋白系とSmad系のクロストークを示した(J.Biol.Chem.誌に昨年度発表)。更に本年度の研究でα1受容体はPKCの活性化を介してNF-κBを活性化することを明らかにした(日本肝臓学会総会発表)。研究は極めて順調に行われている。
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