我々は、H. pyloriのcagpathogenicity island(cag PAI)内にある細胞空胞化毒素関連蛋白(CagA)のヒト胃粘膜上皮細胞に及ぼす影響を検討した。cagA遺伝子をヒト胃粘膜上皮細胞AGS細胞に遺伝子導入し、CagAのチロシンリン酸化、CagAと細胞質内脱リン酸化酵素src homology 2-domain containing protein tyrosine phosphatase(SHP-2)との結合を、immunoblottingで検討した。また、臨床分離株におけるcagA遺伝子の多型性を塩基配列決定により解析した。AGS細胞内に遺伝子導入されたcagA遺伝子はAGS細胞内で発現され、発現されたCagAはAGS細胞内でチロシンリン酸化され、SHP-2と結合することが認められた。CagAのチロシンリン酸化部位は、965番目のチロシン残基であることを同定し、CagAのチロシンリン酸化部位周囲のアミノ酸配列に多型性を認め、東アジア株と欧米株とで異なることが認められた。東アジア型CagAと欧米型CagAのSHP-2との結合を、AGS細胞を用いたin vitroの感染実験で検討したところ、東アジア型のCagAを有する株の感染におけるAGS細胞内でのCagAのSHP-2との結合が、欧米型のCagAを有する株の感染におけるCagAのSHP-2との結合に比べ強いことが認められた。また。組織学的解析で、東アジア型のCagAを持つH. pylori感染は、胃粘膜の炎症が強く、胃粘膜萎縮が強いことが認められた。SHP-2との強い結合を示す東アジア型のCagAを有するH. pylori感染は、胃粘膜の炎症を強く惹起し、萎縮性胃炎・胃癌の発症の危険因子であると考えられた。
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