膵癌はいまだ極めて予後不良であり、とくに有効な治療手段のないその進行癌は、まったく新しい治療手段であり今後の発展が切望される遺伝子治療のよい対象とされる。本研究では、これまでに開発した腫瘍指向性ペプチドベクターCRGDCF(K[H-]KKK)6と複合体を形成させるものとして、最近注目されるRNA interference (RNAi)を利用した治療導入遺伝子の基礎的検討を行い、進行膵癌に対する非ウイルス性遺伝子治療の開発を目指す。 これまで、RNAi効果は植物や線虫などで観察されており、実際に人膵癌細胞において観察されるかどうかは明らかではなかった。そこで、まず人膵癌細胞株においてRNAi効果が観察されるかを、外来性のルシフェラーゼ遺伝子と内因性のc-raf遺伝子を標的とした約600塩基のアンチセンスRNAまたはセンスRNAを発現するgWIZプラスミドおよび二つの遺伝子を同時に発現するpBudCE4.1プラスミドを用いて検討した。導入ベクターとしてトランスフェクタムまたは腫瘍指向性ペプチドベクターを用いたが、ルシフェラーゼ活性またはフローサイトメトリーにより測定した細胞内c-raf蛋白レベルは、アンチセンスRNA単独よりもアンチセンスとセンスRNAを同時に発現させた方がより強く抑制された(第7回日本遺伝子治療学会にて発表)。さらに、最近報告されたRNAi効果を発揮する21塩基対の最小の合成二重鎖RNAを腫瘍指向性ペプチドベクターとの複合体として用いたところ、ルシフェラーゼおよびc-raf遺伝子に対して50%程度の抑制効果が観察された(第11回アンチセンスシンポジウムにて発表)。 このように、RNAi効果発現に腫瘍指向性ペプチドベクターが有効に利用できたことは、進行膵癌に対する非ウイルス性遺伝子治療の開発に希望を与えてくれた。
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