研究概要 |
腸上皮細胞には数種類のアクアポリン(AQP)が発現しており、腸管内腔と上皮細胞との水移動を調節している。しかし、AQPが下痢や便秘などの病態とどのように関わっているかは不明である。我々は大腸上皮細胞株HT-29を用い、消化管ホルモンVIP,NPY,PYYを添加によるAQP3 mRNA発現量をノーザンブロットにて検討した。NPY,PYYではAQP3発現に差がみられなかった。しかし、VIP添加では、AQP3mRNA発現が増強した。VIPの各種濃度による検討では、100pM以上で200%に増強され、また時間は6時間をピークに以後減少した。またAQP3抗体を用いたウエスタンブロットでは、VIP刺激によりAQP3蛋白量も増加していた。次にVIPレセプターからのシグナル伝達について明らかにするため、cAMP刺激、並びにPKA阻害剤を用いた実験を行った。AQP3mRNAはcAMPでVIPと同様に増強され、PKA阻害剤H-89,H-9はVIPとcAMPによる増強を完全に抑制した。 転写因子については、AQP3遺伝子のプロモーター領域にcAMPシグナル依存性の転写因子CREBが結合するATF領域が存在するため、CREBを用いたゲルシフトアッセイにて転写活性を測定した。VIPやcAMPによる刺激では、CREBへの結合が増加していた。従って、腸上皮細胞においてVIPはVIPレセプターに結合し、細胞内cAMPの増加を介してAQP3の転写を促進していることが明らかとなった。以上の結果は、第43回日本消化器病学会大会で報告し、現在論文投稿中である。今後ルシフェラーゼ活性による転写因子のより詳細な検討を行うと同時に、高浸透圧刺激によるAQP3発現増強についても検討する予定である。
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