クローン病や潰瘍性大腸炎では血清中のIL-6と可溶性IL-6レセプター(sIL-6R)が増加している。そこでIL-6のシグナルをブロックする抗IL-6R抗体の臨床応用をめざしてその有効性を実験腸炎モデルで検討した。クローン病モデルとして、SCIDマウスへのCD4^+ CD45RB^<high>T細胞移入腸炎を用い、T細胞移入直後から毎週ラット抗マウスIL-6R抗体を腹腔内に投与し、コントロールとしてラットIgGを同様に投与した。コントロール群にみられた体重減少、下痢などの臨床症状および組織学的にみた腸炎は抗体投与により著明に抑制された。血管内皮細胞における接着分子ICAM-1、VCAM-1の発現は抗体投与により強く抑制され、腸管のCD4^+T細胞及びマクロファージの数も著しく減少した。抗体投与群ではIFN-γ、IL-1β、TNF-α mRNAの発現が著明に抑制されたが、IL-10やTGF-βなどの抗炎症性サイトカインは減少しなかった。粘膜バリアーを破壊する誘導型NO産生酵素の腸粘膜での発現も著明に減少した。TUNEL染色では抗体投与群でT細胞のアポトーシスが亢進しており、T細胞の減少は血管内皮細胞での接着分子の発現抑制によるだけでなく、STAT3依存性の抗アポトーシス遺伝子の抑制を介していることが示唆された。一方潰瘍性大腸炎モデルとしてDSS腸炎を用い、DSS自由飲水開始時に抗IL-6R抗体を1回腹腔内に投与した。DSS腸炎も抗体投与により著明に抑制されたが、驚いたことにSTAT3のリン酸化は減少しておらず、むしろ時間経過とともにリン酸化STAT3の局在は単核球から粘膜上皮に移行しており、修復機転との関係が示唆された。STAT3をリン酸化している因子のひとつとしてEGFの関与が示唆された。
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