研究の目的:研究者らは、EBウイルスは慢性萎縮性胃炎の経過において胃上皮細胞の不死化に関与するものと推定している。 本年度の研究実施状況:慢性胃炎・胃癌症例35例について、EBウイルスDNAのBam HI-W断片をリアルタイム定量PCR法にて検出し、ウイルス感染の有無、胃内分布と感染コピー数、の検討を行った。その結果、65.7%(23/35)の症例において、胃生検切片からEBV DNAが検出された。EBV DNA検出は、中等度の萎縮性胃炎例の萎縮中間帯に有意に高頻度であった(論文投稿中)。胃癌手術例での、EBウイルス感染細胞に多数存在るEBV encoded small RNA1(EBER1)に対するin situ hybridizationにおいても、EBウイルス関連胃癌は、胃体部の胃粘膜萎縮境界近傍に存在していた。胃癌120病巣におけるEBER1 ISHじよる検索では、EBV関連胃癌は、内視鏡的粘膜切除を行った54病巣には見られず、外科手術の66病巣中3病巣(5%)を占め、胃型の粘液形質と関連を有していた(論文準備中)。さらに、残胃の胃癌の手術例17例においては7例(41.8%)と極めて高頻度にEBウイルスの関連が見られ、注目された(Scand J Gastroenterol 2002)。これらの結果より、EBVは、慢性萎縮性胃炎の経過において中等度の萎縮の進展に伴い萎縮境界近傍や残胃に感染し、発がんに関与するものと推定している。これらの成績を、諸家のEBウイルス研究の成果と併せて、画期的な邦文成書「EBウイルス」の出版準備中である(診断と治療社、2003年7月刊行予定)。
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