研究概要 |
ヒト消化器癌におけるマトリライシンの発現を大腸癌・胃癌・肝細胞癌・食道癌・膵癌などの消化器癌において検討を行なってきた。その結果、どの消化器癌においても高発現すること、癌の進展に関連する遺伝子であること、独立した患者予後不良因子であることを明らかにした。(J Clin Oncol,2000)さらに、マトリライシンの発現には悪性形質と関わりのある発現と関わりのない発現の2パターンがあることを明らかにした。すなわち、マトリライシンの癌細胞基底膜側の発現および腺腔側での発現である。最も悪性形質が高くかつ浸潤・転移に直接関連する浸潤先進部において、マトリライシンは明らかに基底膜側に発現しており、浸潤・転移に強く関連するものと考えられる。一方、大腸腺腫あるいは粘膜内癌の多くでマトリライシンは腺腔側に発現している。近年、マトリライシンの発現をβカテニン/TCF複合体が誘導することが報告されている。しかし、APC/βカテニンの異常は大腸腺腫からすでに存在し、この場合マトリライシンは浸潤に関連しない腺管側の発現様式をとっている。すなわち、βカテニン/TCF複合体の活性化のみではマトリライシンの基底膜側の発現を説明できないと考えられるが、悪性形質の獲得に関連するマトリライシンの発現機構に関しては今後の解明が期待される。マトリライシンの実地診療への応用に関連して、smに浸潤している大腸癌60例でマトリライシンの発現を検討したところ、マトリライシン陰性のものにはリンパ節に転移しているものは一例も存在せず、臨床評価が難しいリンパ節転移陰性を予測しうる貴重な分子マーカーになると思われた。
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