研究概要 |
p53遺伝子欠損や変異は、きわめて多くの癌において認められる。その治療にp53遺伝子による遺伝子治療が期待されており実際の臨床試験においても、ある程度の有効性が確認されている。しかしながら、野生型p53遺伝子の癌細胞への導入のみでは、十分な抗腫瘍効果を発揮しない腫瘍細胞もあり、化学療法や放射線療法などDNAを直接傷害する方法の併用や,酪酸ナトリウムの併用など直接p53蛋白を修飾する方法が試みられている.最近,我々は活性化PP2Aがp53の核移行シグナル近傍のSer376を脱リン酸化し,核移行を促進することでp53の転写活性を高めることを見出した.そこで、今回我々はp53のmodificationの一つとしてp53のSer376をAlaに変異させ同部位のリン酸化を受けない新規の変異型p53遺伝子アデノウイルスベクター(Ad)を作製しその抗腫瘍効果を検討した. (方法) 1)変異型p53遺伝子アデノウイルスベクターAdCWp53/S376AはSite-directed mutagenesis法によりp53の376番目のSerをAlaへ置換しCMVプロモーターを付加後,Grahamの方法に従い作製した.2)p53欠損Hep3B細胞に変異型p53導入後,蛍光標識抗体染色とWestern blotで経時的にp53の局在を検討した.3)変異型p53導入細胞の抗腫瘍効果はin vitroおよびin vivo坦癌マウスモデルで検討した.(結果) 1)Hep3B細胞に変異型p53Adを感染後6時間で明らかに核への局在を認め,実際に野生型にくらべ核移行が促進していることを確認した.2)変異型p53導入細胞の細胞増殖抑制効果は,野生型p53導入細胞に比較し有意に増強していた.3)変異型p53Ad投与群では野生型p53Adに比べ有意な抗腫瘍効果と生存率の延長を認めた.(結論)変異型p53遺伝子アデノウイルスベクター用いた新しい癌遺伝子治療の可能性が示唆された.
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