研究概要 |
目的:癌細胞の浸溜・転移における細胞接着因子の役割の解明は最近めざましい勢いで進んでいるが,古くから知られてきた正常細胞,癌細胞における細胞接着による増殖抑制の機構はいまだ不明である。消化器癌はいうまでもなく上皮系細胞から発生し,その細胞間接着にはEカドヘリンが主な役割を担っている。我々はこれまでEカドヘリンのみならず,その裏打ち蛋白であるβカテニンが接着に極めて重要な役割を担っていることを遊離細胞として増殖し焼けるヒトスキルス胃癌株HSC39(βカテニンに異常がある)を用いて証明してきた。最近,我々はこのHSC39細胞から細胞接着性を示す亜株HSC39Ad細胞を分離することに成功した。このHSC39Ad細胞は親株に比べて増殖速度が低下しており,この細胞をモデルにしてEカドヘリン依存性contact dependent growth suppressionを検討した。 研究成果: 1.HAC39Ad細胞の細胞増殖速度はin vitroにおいて親株よりも低下しており,またヌードマウスの皮下に移植した腫瘍の増殖速度も親株の増殖速度の約60%であった。 2.HSC-39Ad細胞は親株と同様のβ-カテニンの異常を有している。そこで他のEカドヘリン裏打ち蛋白であるαおよびγカテニンの発現増強をwestern blottingで検討すると,親株に比べてそれぞれ約1.7倍と2倍に増加していた。 3.細胞増殖速度の違いが細胞接着を介するか否かを検討する目的でHSC-39Ad細胞にEカドヘリン抗体を添加すると,(1)細胞周期ではG1期が短縮し,増殖速度が親株と同等に回復した。(2)さらにp21/WAF1の発現が低下していた。(3)また,増殖速度の回復には培地中の増殖因子(EGFαなど)が必要であった。 4.Eカドヘリン依存性細胞接着により,アクチン細胞骨格とそれを制御するRhoが活性化された。最近,Rhoがp21/WAF1の発現を調節することが報告されており検討中である。 結語:今回の検討により正常細胞,癌細胞における細胞接着による増殖抑制の機構の解明を試み,カドヘリン,カテニン,Rho, p21/Waf1を介することを明らかにした。今後,Eカドヘリン依存性細胞接着-細胞増殖抑制の機構を利用した消化器癌の治療の新しいモダリテイを開発したいと考える。
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