研究概要 |
炎症性腸疾患と総称される、潰瘍性大腸炎およびクローン病の病因に関しては不明な点が多い。 炎症性腸疾患長期罹患例には、しばしばdysplasiaと呼ばれる異型上皮が発生し、前癌病変として重要であると考えられている。特に長期罹患例のdysplasiaには、染色体の増幅や欠失、遺伝子の変異が認められるとの報告がある。しかし、既知の癌遺伝子、癌抑制遺伝子の異常の頻度は低く、細胞の異型を引き起こすメカニズムを説明しうる分子マーカーは極めて少ない。本研究では、潰瘍性大腸炎に伴うDNAメチル化パターンの変化に関して解析を行った。大腸癌において異常メチル化を認める遺伝子、p16INK4A、hMLH1、CACNA1G、COX2における、正常組織での炎症に伴うメチル化について、Bisulfite-PCR法により、定量的にメチル化レベルを検討した。その結果、(1)これら遺伝子の転写開始点周囲のメチレーションは癌特異的であり、dysplasiaの段階では認められないこと、(2)CpG island周辺のメチル化は炎症により増加していること、(3)炎症によりメチル化される領域の近傍には、炎症の有無に関わりなくメチル化しているメチル化のホットスポットが存在すること、(4)癌でメチル化されている遺伝子のほとんどが炎症によるメチル化と関連することを明らかにした(Cancer Res,61:3573-3577,2001)。またVERSICANなど一部の遺伝子において、炎症によるメチル化が細胞異型の出現に先行して起きていた。以上の結果より、炎症におけるプロモーター周辺のメチル化は、遺伝子のメチル化の異常に対する感受性を規定する重要な因子の一つで有ることが示唆された。今後、マーカーの数をさらに増やし炎症性腸疾患における発癌リスクを高い精度で予測出来るようにする。また。MCA法により、メチル化により不活化される新しい遺伝子の機能解析を行い、炎症性腸疾患における発癌の分子機構を明らかにする。
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