炎症性腸疾患長期罹患例には、しばしばdysplasiaと呼ばれる異型上皮が発生し、特に長期罹患例の発癌リスクは3-5%と健常人の5-10倍も高く、癌のサーベイランスは重要な課題である。しかし、既知の癌遺伝子、癌抑制遺伝子の異常の頻度は低く、発癌リスクを予測するための分子マーカーは極めて少ない。本研究ではこれまで、潰瘍性大腸炎に伴うDNAメチル化パターンの変化に関して解析を行い、大腸癌において異常メチル化を認める遺伝子、p16INK4A、hMLH1、CACNA1G、COX2の、正常組織および炎症に伴うメチル化について解析し、CpG island周辺のメチル化は炎症により増加していること、炎症によりメチル化される領域の近傍には、メチル化のホットスポットが存在することを明らかにした。また一部の遣伝子において、炎症によるメチル化が細胞異型の出現に先行して起きていた。以上の結果より炎症におけるプロモーター周辺のメチル化は、遺伝子のメチル化されやすさを規定する重要な因子の一つで有ることが示唆された。 また、炎症性腸疾患において異常メチル化している新規遺伝子を同定する目的で、我々が開発したメチル化スクリーニング法であるMCA法により、メチル化により不活化される遺伝子の網羅的解析を行った。新たに同定されたメチル化の標的遺伝子DFNA5について解析した結果、CpGアイランド周辺のメチル化が、炎症性腸疾患において異常メチル化しており、大腸癌ではさらに広い範囲でメチル化を認めた。DFNA5がメチル化により発現していない癌細胞に遺伝子を導入すると細胞の増殖が抑制され、DFNA5は細胞増殖を負に制御すると考えられた。以上の結果より、遺伝子の異常メチル化は、潰瘍性大腸炎を発生母地とした、大腸癌の発癌リスクの予測や早期発見のための分子マーカーとして有用であると考えられた。
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