研究概要 |
申請者らは1995年のAT Motif Binding Factor 1 (ATBF1) cDNAクローニング以来、個体発生や筋肉への組織分化、消化器における細胞分化制御および癌化機構の解明をめざして研究を進めた。第一に、ATBF1がアルファフェトプロテイン(AFP)の転写制御因子として発見された背景から、AFP産生胃癌におけるATBF1の発現変化を検討した。8種類の胃癌細胞株と臨床例の検討により、AFP産生胃癌においては特異的にATBF1が欠如していることを見い出した(Oncogene 2001,20:869-73)。この発見はAFP産生胃癌の転写調節因子のレベルの変化を捕らえた最初の報告であり、AFP産生胃癌が通常の胃癌と比較して、著しく予後不良である事実と深く関わっている本質を遺伝子転写調節レベルで示した報告である。第二に、中胚葉系の細胞分化モデルであるC2C12細胞株を用いて筋肉細胞分化制御に関する研究を進めた。従来知られていた神経外胚葉系の細胞分化においてはATBF1は未分化幹細胞では発現せずに、分化刺激によってそのmRNAの発現上昇が観察されていた。ところがC2C12細胞を用いた実験系では、ATBF1は未分化状態の筋原細胞状態でmRNAが高く、分化したmyotubeでその発現が消失していた。さらに細胞特性へ与える影響を詳細に解析する為にC2C12細胞株へATBF1 cDNA強制発現ベクターを導入した実験系を確立した。その結果、細胞周期を制御するp21,Cyclin D1、組織分化を制御するMyoDなどの発現が大きく変化し、ATBF1がそれらの細胞分化因子のmRNA発現に強く影響を与え組織特異性を制御する転写因子である事実を示した(J. Biol. Chem.2001,276:25057-25065)。以上、本研究の成果は、従来不明であったAFP産生胃癌の癌化機構および筋肉細胞分化の特性の謎を解き明かす転写調節機構の解明に大きく貢献している。
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