研究概要 |
クローン病と潰瘍性大腸炎患者の手術標本を対象として、増殖細胞マーカーであるKi67とリンパ球の表面マーカー(T細胞関連としてCD3,CD4,CD8、B細胞関連としてCD19,CD20,CD138)の免疫二重染色法を用いて、両疾患の病変部において実際に惹起されるリンパ球の増殖反応の解析を行った。クローン病の非乾酪性肉芽腫においては、代表的な抗原刺激の場として知られる腸間膜リンパ節や腸粘膜内リンパ装置のT細胞領域と同等のCD4陽性T細胞の増殖反応が惹起されていることが明らかとなった。これまでクローン病の肉芽腫は病理診断学的意義は非常に大きいが、その免疫学的意義は乏しいと考えられていたが、今回の検討で肉芽腫が抗原特異的な免疫反応の場として機能しており本症の病因・病態に深く関係している可能性が示唆された。 漬瘍性大腸炎の潰蕩底において、リンパ濾胞の形成を伴わないCD19陽性・CD20陰性のB細胞の顕著な増殖反応が確認されたが、クローン病においてはこのようなB細胞の増殖反応は認められなかった。これら潰瘍底で増殖するCD19陽性CD20陰性細胞の多くは、形質細胞のみに発現が認められるCD138も陽性であった。潰瘍性大腸炎の代表的な病理組織学所見の一つと知られるbasal plasmacytosisは、これまでパイエル板や腸間膜リンパ節のリンパ濾胞で抗原刺激により増殖したB細胞が病変粘膜局所に浸潤することにより形成されると想定されていたが、今回の検討により病変粘膜局所で濾胞を形成することなくB細胞が増殖し形質細胞へと分化している可能性が示唆された。 以上の検討から、クローン病ではTh1型、潰瘍性大腸炎ではTh2型の免疫反応が惹起されている可能性が示唆された。今後はこれら病変局所で増殖するリンパ球のさらに詳細な表面形質および、サイトカイン発現を解析する予定である。
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