研究概要 |
核内受容体であるペルオキシソーム増殖剤応答性レセプター(Peroxisome proliferator-activated receptor ; PPAR)には3種類のサブタイプ(α,δ,γ)が存在しているが,これらのPPARは,各種細胞の増殖・分化・細胞死制御に重要な役割を担っていることが明らかとなってきている.消化管粘膜上皮細胞においてもPPARの発現は認められ,消化管発癌過程におけるPPARの役割が注目されている.本研究では,大腸発癌過程におけるPPARγおよびPPARδの意義について基礎的な検討を行うことを目的として実験を進めている.大腸癌細胞にPPARγリガンド(15-deoxy-Δ-12,14-prostaglandin J2やtroglitazoneなど)を作用させると細胞増殖が阻害され,アポトーシスが誘導されるが,今年度の研究では,PPARγリガンドの投与による大腸癌細胞での遺伝子発現パターンの変化についての解析をcDNAアレイを用いて行い,さらに,cDNAアレイ実験で拾い上げられた遺伝子について,定量的PCR法などにより詳細な検討を行った.注目される結果としては,c-mycの発現レベルがPPARγリガンド投与により大幅に低下することなどがあげられる.c-mycは発癌と関連の深い遺伝子であり,大腸癌細胞でもその発現レベルが増大していることが知られているが,この結果は,PPARγの抗腫瘍作用におけるc-mycの重要性を示唆している.また,c-mycにより発現が調節されていると考えられているtelomerase reverse transcriptase(hTERT)について検討したところ,hTERTの発現も,PPARγリガンドにより低下することが明らかとなり,興味ある所見と考えられた.
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