研究概要 |
Trefoil factor(TFF)は消化管をはじめとする粘液分泌上皮に高レベルに発現しており,粘膜層の恒常性維持,損傷修復過程などにおいて重要な役割を果たしていると考えられている.本研究は,TFFの発現調節機構,およびTFFの詳細な作用機構について解析することを目的としている.今年度の研究からは以下のような所見が得られた.(1)免疫組織学的検討,および定量的RT-PCRなどによる検討から,胃粘膜上皮細胞,大腸粘膜上皮細胞のみでなく,ヒト食道上皮由来細胞にもTFF1の発現が認められ,食道粘膜防御機構にもTFFが関連している可能性が示唆された.(2)ラット胃粘膜上皮細胞の初代培養系でTFF各タイプ(TFF1,TFF2,TFF3)のmRNA発現量を定量的に比較検討し,TFF1とTFF2が高レベルに発現しているのに対し,TFF3の発現レベルが低いことを明らかにした.(3)胃粘膜上皮由来細胞(MKN45など)におけるTFFの発現調節機構について検討し,核内受容体であるペルオキシソーム増殖剤応答性レセプター(Peroxisome proliferator-activated receptor)のサブタイプの1つであるPPARγの活性化によってTFF1とTFF2の発現レベルが上昇することを明らかにした.PPARγは各種細胞で細胞増殖,分化,細胞死の調節に関与していることが報告されており,また,胃粘膜上皮細胞にもPPARγの発現はかなりのレベルでみられるので,PPARγによるTFFの発現調節は生理的にも重要である可能性が考えられる.
|