研究概要 |
胃粘膜の恒常性を保つための複雑なネットワークを解明するため、粘液細胞に焦点を絞り粘膜防御能調節におけるペプチド作動性神経の役割について調べ、以下のような結果を得た。 1)ラット胃粘膜を、独自に開発した抗体を用いてcardia, corpus, antrumに分け、各種神経ペプチドの分布を調べたところ、cardiaで多少の分布の違いをみとめるものの、全体としては種々のペプチド作動性神経の存在を確認した。特にcalcitonin gene-related peptide (CGRP)含有神経線維の分布は、lamina propriaに顕著であり粘膜上皮機能との関連が強く示唆された。 2)ラットより作成した胃corpus及びantrum組織で粘液代謝に及ぼすCGRPの作用を検討したところ、corpusにおいてのみ、CGRP受容体を介した特徴的な亢進作用が確認された。これらのことより、ある種のペプチド作動性神経は胃粘膜の特定の領域の粘液代謝に積極的に関与することが明らかとなった。 3)病態変化の過程における粘液細胞の状態を調べるため、ラット実験潰瘍において抗ムチンモノクローナル抗体を用いた免疫組織化学的検討を行ったところ、急性胃粘膜傷害では、胃体部の治癒過程において、特異的なムチンの変動を生じることが確認された。その変動は慢性潰瘍の治癒過程において認められる特異的なムチンと同様であったが、発現の部位や時間経過による変化には慢性潰瘍とは異なる部分も認められ、胃粘膜の恒常性を保つ仕組みにおけるムチンの役割を考える上で重要であると推測された。 4)以上の結果は、粘液細胞の機能を調節している因子としてCGRP含有神経の存在が挙げられ、胃粘膜の恒常性に深く関与することを示唆するものと考えられた。
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