研究概要 |
1.ヒトTLR4(Toll-like receptor 4)遺伝子多型 本研究開始後、間もなく、SmirnovaらによりヒトTLR4遺伝子の多型に関する包括的な報告(Genetics 158 : 1657-1664,2001)が行われた。白人において稀な遺伝子多型(Q188R,C246S,D299G,N329S,T399I,F443L,E474K,Q510H,W593X,K694R,R763H,Q834K)が報告された。しかし、現時点で、白人以外でのヒトTLR4遺伝子の多型に関する検討はいまだない。本年度は、これらの多型を同時にスクリーニングする熱変性高速液体クロマトグラフィー法(以下DHPLC)(特願:平11-357701)にもとづくアッセイ法を開発した。つまり、この領域のヒトゲノムドラフト配列(GenBank配列番号NT017568)を解析し、それぞれの遺伝子多型をはさむPCRプライマーを設計し、DHPLC解析のための指摘条件を決定した。また、他の研究グループにより、胃粘膜腺窩上皮細胞がH.pylori感染に際してTLR4を発現し、さらにmitogen oxidase1の発現を誘導するという報告(J Med Invest 48:190-7,2001)がなされ、TLR4がヒトのH.pylori感染防御に重要な役割を果たすという本研究課題の作業仮説の正当性が裏付けられた。次年度は、患者群と対照群における各多型の頻度を網羅的に検討する計画である。 2.細胞動態評価系の構築 研究代表者らが構築したデジタルタイムラプス蛍光顕微鏡に冷却型CCDカメラを接続したシステムに、新規に開発した「培養細胞の層に細胞欠損領域を作製する器具」(特願:2001-328556)を応用し、細胞損傷後の細胞遊走過程を、5次元デジタル顕微鏡撮像システムで、経時的に透過光像、標識蛍光像をそれぞれ連続して撮像し、画像解析することが可能となった。また、蛍光画像の処理は、コンピューター粒子解析ソフトを応用し、一枚のデジタル画像から、数分で緑色蛍光細胞率と赤色蛍光細胞率を数値化することが可能となった。次年度は、本システムによるTLR4発現の細胞化学的評価を行う。 3.TLR4遺伝子突然変異C3H/HeJマウスでの検討 TLR4遺伝子の点突然変異があるC3H/HeJマウス及びその対照群のC3H/HeNマウスにH.pylori菌液、H.pylori由来LPSを経口投与し胃粘膜傷害を検討した。粘膜内好中球浸潤の指標であるミエロペルオキシダーゼ活性、脂質過酸化反応の指標としてのチオバルビツール酸反応物質量を測定した。H.pylori菌液接種による感染群では、TLR4が正常に機能しないC3H/HeJマウスにおいて、C3H/HeNに比較すると、胃粘膜内の、より著明な好中球浸潤(MPO活性の増加)と酸化ストレス(チオバルビツール酸反応物質量の増加)が惹起されたことから、TLR4がマウスのH.pylori感染に対して防御的に働く可能性が示唆された。なお、H.pylori由来LPS単独の経口投与では、マウス胃粘膜に有意な変化は招来しなかった。
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