研究概要 |
Rac1,Cdc42,RhoAは活性型のGTP結合状態と不活性型のGDP結合状態を周期的に移行するスイッチ分子として機能していることが知られている。そこで我々はRac1遺伝子の機能に注目した。癌あるいは癌細胞株において内因性活性型Rac1の活性化を直接検討した報告はなく、今回我々は13種類の大腸癌細胞株を用いて内因性の活性型Rac1遺伝子の活性化を検討し、内因性活性型Rac1遺伝子高活性化細胞株群にて低活性化細胞株群に比し浸潤能が高いことを示した。次にLysophosphatidic acid (LPA)によるRhoA刺激の検討により活性型Rac1がRhoAと別の経路で浸潤に関与していることを示した。Rac1の下流のシグナル伝達について調べた。Rac1の恒常的活性変異のV12RacとRac1の標的蛋白のWAVE wild type (WAVE WT)の遺伝子導入により癌の浸潤能を亢進させ、Racのdominant negative N17RacとWAVEのdominant negative (WAVE DN)の遺伝子導入により癌の浸潤能を減少させた。Cdc42の活性化によりN-WASP-Arp2/3複合体が活性化され糸状仮足が形成され、Rac1の発現の活性化によりWAVE-Arp2/3複合体が活性化され葉状仮足が形成される。我々はN-WASPのCA region (cofilin homology, acidic domain)のmutant plasmid DNAを使用し、大腸癌細胞株の浸潤能を検討したところ阻害された。このことから我々は活性型Rac1遺伝子がWAVE-Arp2/3複合体を介して大腸癌の浸潤能を亢進させるシグナル経路を示した。
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