研究概要 |
胃粘膜局所において単球、マクロファージより産生された炎症性サイトカインIL-1βは、胃粘膜細胞の障害作用以外に、胃酸分泌抑制やプロスタグランジン産生などの胃粘膜保護作用も有している。このように胃粘膜においてIL-1βは様々な生理作用を果たしていると考えられている。私共は本研究で胃粘膜におけるEGF様増殖因子を介した新たなIL-1βの作用を検討した。培養ヒト胃線維芽細胞と6種類のヒト胃癌上皮細胞株(MKN-1、-28、-74、TMK-1、NUGC-3、AZ-521)を用いてIL-1β刺激を行いEGF様増殖因子(transforming growth factor-α(TGF-α)、heparin-binding EGF-like growth factor (HB-EGF)、amphireguli (AR))の発現をTaqMan probeを用いたreal time PCR法にて検討した。その結果、5種類の胃癌上皮細胞株においてIL-1β刺激後TGF-α、AR、HB-EGF発現の増加が認められた。一方、胃線維芽細胞ではTGF-α発現は認められず、IL-1β刺激後HB-EGF発現が著明に増加した。さらにこれらの胃癌細胞株の培養上清中に放出されたTGF-αをELISA法にて測定した。培養上清中のTGF-αはphorbol esterであるPMA存在下でのみ観察され、IL-1β刺激によって培養上清中のTGF-αの増加が認められた。このことはPMAによって活性化されたPKCを介して特異的メタロプロテアーゼ(ADAM)が活性化され、それによって膜アンカー型TGF-αが膜表面より切断され培養上清中に放出されたと考えられた。またIL-1β刺激によって胃線維芽細胞ではEGF受容体発現の増加が認められたが、胃癌細胞株では変化は認められなかった。以上のことから胃粘膜の間葉及び上皮細胞において炎症性サイトカインであるIL-1βがEGF様増殖因子であるTGF-α, HB-EGF, ARを介してその生理機能を果たす可能性を示唆していた。さらに内視鏡検査時に得られたbiopsy検体を用いて正常ヒト胃粘膜の器官培養を行ったところ胃炎の程度に相関して培養上清中にTGFαの放出が認められた。私共は2003年5月のアメリカ消化器病学会で以上の結果を発表予定である。
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