私共は本研究で胃粘膜におけるEGF様増殖因子を介した新たなIL-1βの作用を検討し、以下の結果を得た。 (1)5種類のヒト胃癌上皮細胞株と培養ヒト胃線維芽細胞を用いてIL-1β刺激を行い定量的PCR法にてEGF様増殖因子のmRNA発現を検討した。4種類の胃癌細胞でIL-1β刺激によるtransforming growth factor-α(TGF-α)、heparin-binding EGF-like growth factor(HB-EGF)、amphiregulin(AR)の発現増加が認められた。胃線維芽細胞ではTGF-α発現は認められなかった。一方、HB-EGF発現はIL-1β刺激によって増加が認められた。 (2)さらにこれらの胃癌細胞株の培養上清中に放出されたTGF-αをELISA法にて測定した.培養上清中のTGF-αはphorbol esterであるPMA存在下でのみ観察され、IL-1β刺激によって培養上清中のTGF-αの増加が認められた。このことはPMAによって活性化されたPKCを介して特異的メタロプロテアーゼ(ADAM)が活性化され、それによって膜アンカー型TGF-αが膜表面より切断され培養上清中に放出されたと考えられた。このTGF-α分泌はシクロオキシゲナーゼ-2選択的阻害剤では阻害されなかった。またIL-1β刺激によって胃線維芽細胞ではEGF受容体発現の増加が認められたが、胃癌細胞株では変化は認められなかった。 (3)IL-1β刺激胃線維芽細胞の培養上清をMKN28細胞に加えたところTGF-α放出の亢進が認められた。このことはIL-1β刺激胃線維芽細胞より分泌された何らかの液性因子がMKN28細胞のTGF-α放出を亢進させることを示唆していた。 以上のことから胃粘膜においてIL-1βが間葉-上皮細胞間の相互作用によってTGF-αなどの様々なEGF様増殖因子を介してその生理機能を果たす可能性を示唆していた。さらに内視鏡検査時に得られたbiopsy検体を用いて正常ヒト胃粘膜の器官培養を行ったところ胃炎の程度に相関して培養上清中にTGFαの放出が認められ、現在さらに検討中である。
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