独立した細胞型として漸く認められて来たカハールの介在細胞(ICC)ついては、現時点の課題として、臓器や組織層の相違による細胞学的、機能的多様性の検証が挙げられるが、胃に関する微細構造学的報告は少なく、中でも縦走筋内のICCについては、全く知られていない。また、一般に消化管縦走筋では神経支配が乏しく、筋-筋間のgap junctionも無いか非常に少ないと報告され、これまで、筋運動の制御機構についても、充分に説明されていない。そこで、今年度の研究では、ICCによる間接支配を念頭に、ラット胃を材料として、幽門部筋層におけるICCの分布をc-KIT免疫組織化学により観察すると共に、縦走筋内ICCの微細構造について検索した。 ラット胃幽門部の筋層では、筋層間神経叢の周辺部に最も強いc-KIT陽性反応が見られ、輪走筋内、縦走筋内にも散在性に観察された。また、輪走筋最内層と粘膜下結合組織層との境界部にも認められたことは、胃の他の部位には無い特徴として注目に値する。 縦走筋内のICCは豊富なミトコンドリア、中間径フィラメント、カヴェォラを含み、同種細胞間、平滑筋とgap junctionsを形成する点で、これまで報告されてきた輪走筋内のICCと共通する特徴もつことが示された。また、シナップス小胞を多量に含む神経終末と密接して観察された。他方、神経終末は平滑筋とも直接密接する像が観察された。このことより、ラット胃幽門部の縦走筋は、ICCを介する間接支配と神経による直接支配との平行支配を受けるものと推定された。そして、これは、従来、定説とされてきた自律神経系末梢部における支配様式に新しい視点を付加するものである。
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