研究概要 |
TGF-βシグナル伝達の研究は、最近伝達物質であるSmadが同定され急速に進歩してきた。我々は、分化型肝細胞癌では、癌細胞の産生するTGF-βが、Smad 2/3を介して肝癌の細胞増殖を抑制しているが、かかる癌細胞において抑制型Smad 7がTGF-βによる細胞増殖の抑制作用を阻害していることを報告した。更に一部の未分化癌では、癌細胞の産生するTGF-βが、むしろ自身の癌細胞増殖を促進していることを見出した。またSmad 2の活性化を指標にして、このような癌細胞におけるTGF-βシグナル伝達機構について報告してきた。また急性・慢性肝障害モデルにおける、Smad蛋白リン酸化の変化を、星(筋線維芽)細胞・肝細胞に分離し調べた。更に、障害肝から星細胞ならびに肝細胞を培養し、これら状態の各種細胞におけるTGF-βに対する生物活性の変化を調べることで、星(筋線維芽)・肝細胞におけるTGF-βシグナル伝達およびその制御機構について考察してきた(Hepatology 2002;35:49-61)。 本計画における申請者等が行った予備的実験の結果、TGF-βは初代培養肝細胞、Huh-7,HepG2等の肝癌細胞に対して増殖抑制効果を示したが、HCC-T, M等の肝癌細胞では全く増殖抑制効果を認めなかった。TGF-β受容体やSmadにはいずれの細胞にも遺伝子の変異を認めなかったことから、これら生物活性の違いはSmad 2/3の活生化の状態、ならびに標的遺伝子上に存在するSmad2/3/4の結合相手となる転写因子の違いで生じているものと思われた。
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