腫瘍特異的遺伝子発現を利用した難治性消化器がんに対する自殺遺伝子治療

2002 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 13670580
• 研究機関: 千葉県がんセンター(研究所)
• 研究代表者: 川村 希代子 千葉県がんセンター, 病理研究部, 主席研究員 (80260248)
• 研究分担者: 税所 宏光 千葉大学, 大学院・医学研究院・腫瘍内科学, 教授 (10092058) ; 田川 雅敏 千葉県がんセンター, 病理研究部, 部長 (20171572)
• キーワード: 遺伝子治療 / 腫瘍プロモーター / HSV-TK / レポーターアッセイ / サバイビン / ミッドカイン

研究概要

腫瘍特異的プロモーターとして、多くの腫瘍で高い発現をみるが、正常組織での発現がきわめて低いサバイビン遺伝子の転写調節領域を、レポーターアッセイを用いて解析した。とりわけ腫瘍特異性に関与する領域を明らかにするために、ゲノム遺伝子の5'上流よりさまざまな領域を欠く、欠損変異体を作成し同様な方法で検討した。その結果、(1)ヒト腫瘍細胞(膵がん、乳がん、肺がん)においては、転写開始点より2.7kb上流の領域を含むゲノム遺伝子で転写活性が存在していた。(2)転写開始点より500bpまで欠損させた場合でも、転写活性は維持されてたが、200bpまで欠損させると細胞よっては転写活性が低下した。(3)ヒト正常繊維芽細胞を用いた場合は、転写活性は低値であった。したがって、転写開始点よりおよそ500bpまでのゲノム領域を使用すれば、腫瘍細胞に特異的な転写が可能となると想定された。また消化器がんで高い発現を示すミッドカインプロモーターの下流にHerpes simplex virus-thymidine kinase (HSV-TK)遺伝子を結合し、これをヒト膵がん細胞に発現させたあと、プロドラックであるガンシクロビルを投与すると、一度ヌードマウスに生着した遺伝子導入腫瘍が完全に消失した。そこで、このミッドカインプロモーターをアデノウイルスのE1A転写調節領域に挿入し、E1Aの発現を当該のプロモーターで制御するウイルスを構築した。このウイルスはインヴィトロで強力に肝がん細胞を殺傷したが、膵がん細胞での殺傷効果は低かった。当該プロモーターの活性は肝がんと膵がんで差が無いことから、この殺細胞効果の違いはウイルスの感染効率の違い、すなわちアデノウイルスの受容体CAR分子の発現の違いによるものを思われた。

研究成果

• [文献書誌] Kawamura K, Tagawa T, et al.: "Secretion of interleukin-10 from murine colon carcinoma cells suppresses systemic anti-tumor immunity and impairs protective immunity induced against the tumors"Cancer Gene Ther.. 9. 109-115 (2002)
• [文献書誌] Tagawa M, et al.: "Identification of a minimal c-erbB-2 promoter region that mediates preferential expression of a linked foreign gene in human breast cancer cells"Int. J. Oncol.. 20. 607-610 (2002)
• [文献書誌] Yoshida Y, Tagawa M, et al.: "A promoter region of midkine gene can activate transcription of an exogenous suicide gene in human pancreatic cancer"Anticancer Res.. 22. 117-120 (2002)
• [文献書誌] Kawamura K, Tagawa M, et al.: "An essential role for REV3 in mammalian cell survival : absence of REV3 induces p53-independent embryonic cells"Biochem. Biophys. Res. Commun.. 293. 1132-1137 (2002)
• [文献書誌] Bahar R, Kawamura K, et al.: "Growth retardation, polyploidy and multinucleation induced by Clast3, a novel cell cycle-regulated protein"J. Biol. Chem.. 277. 40012-40019 (2002)
• [文献書誌] Saisho H, et al.: "Expression of the interleukin-21 gene in murine colon carcinoma cells generates systemic immunity in the inoculated hosts"Cancer Gene Ther.. (in press).