気管支喘息における肝細胞増殖因子(HGF)の意義について、マウス実験モデルによって検討した。 1)内因性HGFの発現の経時的変化の検討。 BALB/cマウスを卵白アルブミン(OVA)抗原で免疫感作し、さらにOVA溶液を吸入させて喘息様反応を惹起した。経過中、肺抽出液ならびに血清中のHGF濃度を測定した。その結果、抗原感作の成立とともに肺におけるHGFの量は増加した。気道での炎症の進展に伴って、HGFはさらに増加した。 2)HGF産生プラスミドペクターの生体内導入の検討。 まず、HGF産生プラスミドペクターを筋肉内で発現させる事を試みたが、効果的発現は認められなかった。次に、リポゾームとともにマウス気管内に投与した。その結果、肺においてHGFの発現は確認されたが、一方でこの投与方法は、肺に非特異的炎症を惹起し、肺内への好中球の遊走浸潤が認められたため、実用化が因難と判定された。次に、ベクターを皮下注射して発現させる方法を試みたが、HGFは生体内で殆ど発現されなかった。そこで、4番目の方法としてベクターの急速静脈内投与による発現を試みた。その結果、投与1日後より、血中濃度で50〜80ng/mlの発現が認められ、発現効果はおよそ5日後まで続いた。 3)そこで、静脈内投与のシステムを用いて、気管支喘息モデルにおけるHGFの生体内での効果を検討した。BALB/cマウスを卵白アルブミン(OVA)で全身感作した後、OVAを3日間吸入チャレンジした後、24時間後にサンプルの解析を行なった。吸入投与の前日にHGF産生ベクターあるいはコントロールベクターを単回投与した。その結果、HGFベクターの投与により、気道過敏性の亢進と好酸球性気道炎症は強く抑制された。従ってHGFは生体内においてアレルギー反応を抑制する事が始めて明らかにされ、今後その抑制機序について検討する必要があると考えられた。
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