[背景]肺癌患者には抗癌剤の併用療法が行われているが、多くの場合抗癌剤耐性により早々に抗癌剤が無効となり、治療対策の確立のためにも抗癌剤耐性の分子機構の解明が要望されている。我々はこれまで主に呼吸器疾患の病態と血液凝固系組織因子の関係を解析し、次の研究成果を得てきた。肺癌患者において血液中の組織因子濃度が患者の生存期間、臨床病期と有意に相関し組織因子による癌細胞の凝固促進作用が癌の悪性度と密接に関係していることを見いだした。 [目的]本研究においては組織因子の細胞内シグナル伝達機構に着目して、組織因子のアポトーシス抑制作用と抗癌剤耐性の関係を解明する研究を行った。又、癌細胞での線溶系の阻害剤であるthrombin-activatable fibrinolysis inhibitor(以下TAFI)の発現も検討した。実験では抗癌剤感受性の高い細胞株であるPC9/P、PC7/P、PC14/P、H69/P及び抗癌剤耐性を示す細胞株であるPC9/CDDP、PC7/CDDP、PC14/CDDP、H69/CDDPを用いた。[方法]培養細胞での組織因子とTAFIの発現はenzyme-immunoassay法とreverse transcriptase polymerase chain reaction(RT-PCR)法を用いて検討した。 [結果]抗癌剤耐性の肺癌細胞株では、耐性のない肺癌細胞株にくらべ、組織因子の活性とその発現が亢進していた。逆に、抗癌剤耐性の肺癌細胞株では、耐性のない肺癌細胞株にくらべ、TAFIの発現が低下していた。また、抗癌剤耐性の肺癌細胞株では、耐性のない肺癌細胞株にくらべ、細胞内アポトーシス伝達機構の経路が抑制されていることが明らかになった。 [結論]以上の結果より肺癌細胞における組織因子とTAFI抗原の発現が抗癌剤耐性に関与していることが示唆された。組織因子とTAFIの発現は抗癌剤耐性の指標や予後因子として日常臨床で有用である可能性も示唆された。
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