研究概要 |
肺胞II型上皮細胞は、肺傷害に際しサーファクタントの分泌機能および上皮再生の前駆細胞としての役割を介し、傷害に対して防御的に働く。一方,アンジオテンシンII(ATII)は心線維化の増悪因子の一つとして重要視されている生理的物質であるが,肺においても,肺線維芽細胞の活性化,肺胞上皮へのアポトーシス誘導などの作用を示すことが知られており,肺線維化の促進因子である可能性が考えられている。そこで本年度は,ATIIが肺胞II型上皮細胞の増殖能に直接影響するか,in vitro下に検討した。ラット肺より肺胞II型上皮細胞を分離し,種々の濃度のATII存在下で48時間培養し,細胞内への3H-thym idine取込み量を定量した.その結果,ATIIの有無による取込み量の変化は無く,ATHは肺胞II型上皮細胞のDNA合成に影響しないことが明らかにされた。次に,プレオマイシン経気管投与によるラット肺線維症モデルを用いて、ATII受容体AT1の選択的拮抗薬であるcandesartan cilexetilに抗線維効果があるかどうかを検討した。拮抗薬非投与群では,プレオマイシン投与後14日目より肺ハイドロキシプロリンの増加を認めたが,拮抗薬投与群では肺ハイドロキシプロリン量の増加は有意に抑制された。さらに,組織形態学的検討においてもブレオマイシン投与により惹起される胞隔炎と線維化所見は,拮抗薬投与によって明らかに軽減した。以上よりcandesartan cilexetilには抗線維化作用のあることがvivo実験により示された。次年度は、AT1 receptorの肺組織内局在を明らかにし拮抗薬の標的細胞を同定する。また,炎症および線維化に中心的作用を有する代表的サイトカインを選択し,それらの発現抑制効果を検討する予定である。
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