今年度は中枢レベルで咳嗽を促進させる方法について麻酔下イヌを対象として実験を行った。誘発された咳嗽の強度は声帯刺激と気管刺激では明らかな差が認められなかった。これに対して、声帯と気管を同時に刺激すると、発生する咳嗽は単独刺激より有意に強く、声帯刺激と気管刺激では相互に者増強作用があると考えられた。我々の実験結果は異物侵入に対する咳嗽反射の発生には、上下気道の神経受容器がともに関与していることを示唆しており。高齢者などで咽喉等感覚が鈍磨している患者にしばしば見受けられる誤嚥性肺炎は咽喉等の開閉機能障害のみが原因ではなく、声帯からの咳嗽発生入力の低下による咳嗽機能低下もまた原因の一つとして考慮されるべきと考えられた。ついで関心が持たれたのは、咳噺を増強するために中枢の呼吸刺激は有用か否かという点である。実験の結果はCO_2吸入、アミノフィリン静注、ジモルフォラミン静注のいずれによっても分時換気量は増強傾向が得られたが、アミノフィリン静注では換気が抑制されるイヌも少数ながら存在したことや、ジモルフォラミン静注では一回換気量増加よりも呼吸数の増加が顕著であったことなど、投与薬剤によって作用点が若干異なることが推測された。いずれの薬剤投与によっても、咳嗽の強度は増強傾向が得られたが、最終的な解析はまだ終了していない。
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