研究概要 |
びまん性汎細気管支炎(DPB)における慢性気道炎症の制御に有効であるマクロライド(MA)系抗生物質が,DPBと極めて類似の呼吸器病態を呈するcystic fibrosis(CF)においても奏効することが複数報告された.しかしながらCF発症の責任分子CFTRに対するMAの直接作用については殆ど解明されていない.CFTRにはCl-チャネル機能以外にも他のチャネル蛋白の制御調節など複数の機能があり,気道炎症に直接的・間接的に関与しうる.CFTRが典型的CFの病因のみならず,さまざまな疾患の成因や修飾因子として重要な役割を果たしていることが近年の研究から明らかにされた.われわれはDPB患者においてCFTR異常が高率に見いだされること,およびそのCFTR異常とMA治療反応性に相関があることをこれまでに報告した.本研究はさらにこれらの知見を発展させ,わが国のDPBやCF患者に見いだされるCFTR変異の蛋白レベルでの機能障害機構をより明確にし,さらにMA薬の気道炎症患者に対する有効性に関してCFTR蛋白の機能的側面から解明するものである. 平成14年度は上皮細胞におけるCFTR遺伝子mRNAの発現量,exon9のsplicing,蛋白翻訳,Cl-チャネル機能に対するMAの修飾作用に関して,引き続き分子生物学的観点から検討した.まず,MAがCFTR発現レベルを濃度依存的に軽度減少させること,一方exon9のsplicingに対しては濃度依存的に増加させることを見いだした.さらにCFTR蛋白発現量に対しては野生型細胞株LLCPKでは有意な作用は認められず,ΔF508で形質転換された細胞株LLCPK-ΔF508ではMA添加によりCFTR蛋白量が増加した.またチャネル機能へのMAの修飾作用に関しては,野生型LLCPKでもLLCPK-ΔF508細胞でも有意な変化は認められなかった. わが国のCFやDPBの複数患者に共通に見いだされるCFTR多型125C,およびCFTRミスセンス変異Q1352Hについて,RSV-LTR promoterで駆動される発現プラスミドをpRSV-CFTRをもとにin vitro mutagenesisを用いて作成した.現在これらをLLCPK細胞に導入後,恒久的発現細胞株を樹立し,機能的欠陥の確認とCFTR機能に対するMA剤の作用を解析中である.
|