肺癌の治療成績向上を目指した新しいアプローチとして、アラキドン酸代謝のシグナル伝達経路の触媒酵素であるシクロオキシゲナーゼ(COX)-2の選択的阻害剤の肺癌治療への応用を目的に、in vitro及びマウスモデルを用いた基礎的検討を行なった。臨床応用可能な新規COX-2選択的阻害剤を用いたin vitroの検討で、臨床的に到達可能濃度域で肺癌細胞に対する増殖抑制効果が観察された。さらに肺癌の臨床で期待されている抗癌剤であるドセタキセル、ビノレルビン、アムルビシンとの併用効果の検討では、肺癌細胞に対する抗癌剤の50%増殖抑制濃度がCOX-2選択的阻害剤を加えることにより最大70%減少した。イソボログラムによる検討では、ドセタキセル、ビノレルビンとの併用効果は相乗効果であることが示された。マウスモデルを用いた検討では、COX-2選択的阻害剤単剤で約36%の増殖抑制効果を認めたが、ドセタキセル、ビノレルビンとの併用では、それぞれ65%、55%の増殖抑制効果を示し、臨床応用の有用性が示唆された。COX-2選択的阻害剤のin vivo増殖抑制効果の一機序として、血管新生に対する作用について検討した結果、約30%の血管新生の抑制が認められた。また、ドセタキセルによりCOX-2の発現増強が観察され、抗癌剤とCOX-2選択的阻害剤の併用時の効果増強のメカニズムの一機序であることも示唆された。種々の癌細胞のパネルを用いた検討では、5種類のCOX-2選択的阻害剤の間で効果に差が認められたが、増殖抑制効果は大腸癌、乳癌に比べて肺癌で高く、肺癌に対する臨床応用の有用性が示唆された。COX-2選択的阻害剤の作用点は副作用の多い抗癌剤とは異なり、正常細胞に比して癌細胞で高発現しているCOX-2を分子標的としており、難治性肺癌に対しての有用性が期待される。
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