研究概要 |
早発性家族性ADの原因遺伝子の1つにプレセニリンー1(presenilin-1、PS-1)変異があることが知られている。我々は新規のPS-1mutationを有し、MCI段階の臨床像を観察でき、後にADへと進行した1例を経験したので以下記載する。 症例は47歳の男性、大卒、某企業の研究職。家族歴として父方の祖母、父およびその同胞3人に若年から痴呆が見られ50-60歳台で死亡した。44歳時より物忘れがひどくなってきたと妻が気づくようになったが、職場ではメモを取りながら仕事をこなしており、また海外出張も一人で行なっていた。妻が心配になり精査のため国立久里浜療養所病院精神科を受診した。血圧122/81,MMSE29点(遅延再生でのみ1点失点)、IQ95(VIQ107、PIQ80)、Clinical dementia ratingは0.5。頭部MRIでは、ラクナ病変、大脳白質病変および脳萎縮はともに見られなかった。神経学的異常所見なし。末梢血白血球からDNAを抽出した。ApoE遺伝子型は3/3。APP(Exon16,17)およびPS-2(Exon3-12)上には既知の変異なし。PS-1Exon13のコドン431に、AlanineからValineへのアミノ酸置換を伴う一塩基変異(A431V)が存在しPCR-RFLP法でも確認された。母親からはかかるA431V変異を認めなかった。[^<18>F]FDG-PETによる糖代謝画像では内側側頭葉や後部及び外側頭頂葉、そして後部帯状回において糖代謝の低下を認めた。CSF/total-tau : 632.7pg/ml,CSF/pbospho-tau : 3.2fmol/mlと上昇していたが、CSF-Aβ_1-42>は正常範囲であった。その後、認知機能障害は進行性に増悪し記憶のみならず言語理解や視空間認知にも明らかな異常が見られるようになった。初診から16ヶ月後にはMMSEは20点にまで低下し自立した生活が困難となり、この時点でProbableアルツハイマー病と診断した。
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