アミロイドβ蛋白(Aβ)とタウ蛋白の脳内沈着はアルツハイマー病を特徴づける重要な所見だが、両者の間には何らかの関連が有るのか、あるいは単なる合併なのか詳細は不明であった。ニーマン・ピック病タイプC(NPC)はNPC遺伝子に変異を持つ遺伝性神経変性疾患であり、興味深いことに神経細胞内にアルツハイマー病と同一のタウ蛋白沈着が生じる。NPCのもう一つの特徴は細胞内、特に後期エンドソーム内にコレステロールが沈着することであり、これがNPCの本態と考えられている。近年、アルツハイマー病とコレステロールの関連が想定されつつあり、私はNPCに見られる異常コレステロール輸送がタウ蛋白の沈着に結びつくメカニズムの解明と、この輸送異常のメカニズムがAβの沈着に結びつく可能性について検索を試みた。まずAβを産生するCHO細胞にType2amphiphileを作用させ、NPCと同様なコレステロールの細胞内蓄積を生じさせた。次に、コレステロールを蓄積する後期エンドソームを細胞分画法によって集め、生化学的に解析したところ、Aβが同じ画分に凝集していることが判明した。そこで確認のため、後期エンドソームをセルソーターによって集めて解析すると、やはりAβの凝集が明らかとなった。このエンドソーム内へのAβの蓄積はコレステロールの蓄積量に依存していた。これらの事実は、コレステロールの輸送異常は細胞内にタウ蛋白並びにAβを蓄積させ、このことがアルツハイマー病の病態に関与している可能性を示唆していると考えられた。
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