研究概要 |
本年度は,昨年度の引き続きの懸案事項である高親和性神経栄養因子受容体であるTrkチロシンキナーゼがラフトの主要構成糖脂質であるGM1ガングリオシド(GMD1)により如何に制御されているかを細胞内にGM1を欠損するNG-CR72細胞を用いて検討した.同細胞にはTrk受容体が発現していたが,そのリガンドであるNGFによるTrk受容体のチロシン自己燐酸化反応は観察されず,またその局在も細胞膜上にはなく核周囲の細胞質に分布していた.そこで,同細胞にGM1合成酵素であるGM1 synthase geneをトランスフェクトしてG418の存在下でstable transfectantを樹立し,TrkのNGFに対する反応性をimmunccomplex kinase assayおよびimmunoblot法で調べた.その結果1)このstable transfectantに発現するTrkの発現量はNG-CR72細胞とほぼ同等であったが,2)NGFに対し発現するTrkは明らかなチロシン自己燐酸化反応が観察され,3)Trkは本来の局在場所である細胞膜上に移動しており,しかも明らかに蔗糖密度勾配法に分析よりラフト画分に分布していた.以上の事実は,GM1はTrkの反応性を規定する重要な内在性物質であるばかりでなく,Trkの細胞内局在を規定する因子としても機能していることが解明された(文献2).続いて,HMG-CoA還元酵素阻害薬(HCRI)による筋肉細胞の細胞死の情報伝達系に関し,HCRIによるPI-3Kによる活性のdown regulationの機序解明を行い,以下の結果を得た.1)HCRIによる細胞内チロシン燐酸化反応によりPI-3KのP110 catalytic subunitがチロシン燐酸化反応を受けこれによりp110 subunitはp85 regulatory subunitから解離して細胞質内に移行し活性が低下する事を発見した(文献3).また,HCRIは筋肉細胞に発現するラフト構造を破壊し同部位に局在するはずのRasやカベオリンをラフトより追い出すことを見出した(論文投稿中).
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