アルツハイマー病(Alz)などの神経変性疾患では、異常な蛋白がERで処理し切れず細胞内外に蓄積しそれが「死」へのシグナルとなり神経細胞死が惹起されていると理解されている。本研究では、この「死」へのシグナルと拮抗し細胞死を防御する「防御」へのシグナル伝達系として主要な役割を果たしていることが想定されてきた細胞膜Caveolaあるいはlipid rafts(以下ラフト)との間で如何なるクロストークが存在するのかその実態解明を試みた。この目的のため、まず神経細胞の生存・分化の必須の因子である神経栄養因子受容体(Trk)がこの如何にラフトを構成する糖脂質により制御されているかを調べると同時に、他の主要構成脂質であるコレステロールの果たす役割を筋細胞培養系で検討した。さらに、パーキンソン病で問題となっているユビキチン・プロテアソーム系の活性低下がもたらす影響を検討した。最終年度は、家族性Alzの原因遺伝子であるPS1の突然変異がもたらす糖脂質への影響を詳細に調べ、この異常に基ずくラフトへの影響を検討した。その結果、1)Trk受容体はラフト内に糖脂質のGM1ガングリオシド(GM1)が存在しないと本来の作用が発揮できないこと、2)内在性にGM1合成酵素の遺伝子導入してやると機能回復が見られること、また3)ラフト内のコレステロールを枯渇させてやると筋細胞ではPI-3Kのチロシン燐酸化が惹起されると共にアポトーシスをおこすことなどを明らかにした。さらに、PS1の突然変異を細胞に導入すると4)細胞内のガングリオシド量が著減し、ラフト内に存在すべきTrkが細胞内に留まること、5)このガンクリオシド量の著減はグルコシルセラミドに合成抑制によるものであることを明らかにし、細胞への異常蛋白蓄積はラフト機能にも多大な影響を与え得ると同時にラフト由来の細胞死の存在が示唆された。
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