研究概要 |
近年、成熟動物脳で神経幹細胞が側脳室周囲、海馬歯状回に存在し、神経細胞を産生しつづけることが明らかになってきた。本研究では、ヒト脳疾患の最大の原因である脳血管障害、とくに脳梗塞に際しての海馬歯状回での神経幹細胞の動態、内因性神経細胞新生Neurogenesisを遺伝子治療法により促進する手段の開発について検討している。本年度はラット脳虚血モデルを用いて、脳虚血に際する神経幹または前駆細胞の動態について明らかにした。脳内での増殖細胞は、Bromodeoxyuridine(BrdU)腹腔内投与によりラベルした。増殖細胞の同定に用いた細胞マーカーは、神経幹細胞または神経前駆細胞に対してMusashi-1(Msil),幼若神経細胞に対してDoublecortin(DCX),成熟神経細胞に対して微小管結合蛋白質2(MAP2),NeuN、星状グリア細胞に対してグリア繊維性酸性蛋白質(GFAP)である。ラット一過性前脳虚血再潅流モデルでは、血流再潅流7-10日後をピークとした海馬歯状回顆粒下層(subgranular zone : SGZ)でのBrdU陽性の増殖細胞数の増加が観察された。これらのBrdU陽性細胞の約8割はMsi1陽性であり神経幹細胞または神経前駆細胞と考えられた。また若年令ラット(3ヶ月齢)では虚血後に分裂、増殖した紬胞の大半は、1ヵ月後まで生存し、その約8割は成熟神経細胞のマーカー蛋白質であるMAP2,NeuNを発現し神経細胞に分化していた。次にラット中大脳動脈閉塞モデルで虚血遠隔部位である非虚血側海馬での神経幹細胞の動態、神経細胞新生について検討した。血管閉塞7日後をピークとした一過性のBrdU陽性細胞の増加を非虚血側海馬SGZで観察した。同領域でのBrdU陽性細胞の8割はMsi1陽性、GFAP陰性であり、約5割がDCX陽性であるため、大部分が神経幹細胞または神経前駆細胞と考えられた。また脳梗塞周辺部大脳皮質および側脳室下層でのBrdU陽性の増殖細胞の顕著な増加を観察している。また脳梗塞モデルにおけるプラスミッドDNAを用いた遺伝子治療についても予備実験で梗塞周辺部の大脳皮質に発現させることに成功している。
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