研究概要 |
ラット中大脳動脈閉塞モデルでの海馬歯状回および側脳室下層における神経幹細胞の動態、神経細胞新生について検討した。ラット中大脳動脈閉塞モデルにおいて、虚血半球の側脳室下層における分裂・増殖は1週間後をピークとした一過性の亢進が観察された。一方、非虚血領域である反対側半球では側脳室下層では分裂細胞数に変化は見られなかったが、海馬においては虚血1週間後をピークとした神経前駆細胞の分裂・増殖の亢進が観察された。しかし同領域で新生された細胞の1ヶ月後の生存率はコントロールである偽手術ラットに比べ低下していた。また側脳室下層での神経幹細胞または神経前駆細胞では、幹細胞マーカーであるMusashi1, Nestinがともに発現していることが観察された。神経細胞新生を目的とした遺伝子治療を行うに際して虚血脳における神経幹細胞増殖を規定する要因を定めることが重要である。われわれはアラキドン酸代謝酵素であるシクロオキシゲナーゼ2が虚血、再潅流後に神経細胞やグリア細胞で遺伝子誘導、蛋白質が発現し、神経幹細胞の分裂・増殖の亢進に寄与していることをシクロオキシゲナーゼ2の選択的拮抗薬NS398の投与およびシクロオキシゲナーゼ2欠損マウスを用いて明らかにしている。神経前駆細胞自身でのシクロオキシゲナーゼ2の発現は見られなかったので、神経細胞、グリア細胞で同酵素から産生されるプロスタグランジンが作用しているものと想定される。本研究結果は、シクロオキシゲナーゼまたはその下流にあるアラキドン酸代謝酵素は、虚血脳における神経細胞新生を目的とした遺伝子治療の標的になり得ることを示している。
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